二つの月 朧の恋04
人型の影人の今後の対応について、蘇芳家と桃屋家の当主間で会議が行われた。後継ぎの要と桜は別室で待機している。
要の部屋とは違う部屋に桜はいた。畳の上に置かれた座卓を挟んで、要と向かい合いながら座っている。2人とも喋らず、要の呼吸の音すら聞こえそうなほど静かだった。
桜は出されたお茶を飲みながら要を見た。ピンと背筋を伸ばして正座しており、ぼんやりと庭を眺めている。騒がしくない要は定期的に見るが、どうにも慣れなかった。
「元気ないね。何かあったの?」
「ん? ああ、ごめん。無いよ」
要は桜に視線を向け、誤魔化すように笑った。そのまま、行儀悪くも頬杖をつく。
桜は眉を寄せた。
「行儀悪い」
「いいじゃん、桜しかいないんだから」
「そうだけど……、今日は遊びに来たわけじゃないんだよ」
「まあまあ、どうせ母さんたちだけで決めて、おれたちは何もする事ないんだから。実質遊びに来たことになるじゃん?」
「なに? その理屈」
桜は軽く睨みつけ、結果的に2人で笑った。少しだけ空気が緩み、桜も姿勢を楽にする。
「そう言えばさ、桜は2人目の夫取るの?」
「そういう話は上がってないね」
藍川家と緑家はお家断絶の可能性があるほど才能を持った人物が不足しており、黄木寺家は遠い血筋にしか歳の近い男はいない。桜に好きな人ができない限り、夫は婚約者の蘇芳大我ひとりとなるだろう。
「そう言う要はどうなのよ」
「俺ねぇ……。2人目の話が上がってる。今日ついでに話を持ち出すんじゃない?」
「そっか。じゃあ、香代ちゃんになるのかなぁ?」
「香代ちゃんって、おれの記憶が正しければ小学生じゃん……」
要は絶句する。家のためならば案外割り切りの良い体が、やはり小学生相手と結婚となると思うところはあるのだろう。
「結婚するころには成人済みになるでしょ」
「そうだろうけどさ、尻込みはしちゃうよ……」
要は指折り歳の差を数えた。要と香代の歳の差は6歳。ありえない年齢でもないだろう。
「要が今日、浮かない顔をしてたのはそれが原因?」
「想像に任せる」
「そう。言いたくないならいいけど」
「素っ気ない! なーんかヤダなー。お役目とか、お役目とか」
要は「面倒だ」と言いながら座卓へ頭を乗せる。あまり見ないその態度に桜は驚きつつ、煎餅の袋を開けて食べた。
「珍しいこと言うじゃない。普段ちゃらんぽらんしてても、お役目には真面目なのに」
「いくらおれでも嫌になることぐらいあるよ」
要は体を起こし、桜を見た。
「なあ、桜、と言うわけで、息抜きにどこか遊びに行こうよ。たまには2人でさ」
「うん、いいよ」
向けられた笑顔に桜も笑顔で返す。
振り返ってみれば、要と遊ぶときは大抵、清一郎も一緒だ。2人きりで遊ぶのは新鮮な体験かもしれない。
しばらくして、今後の方針が固められたことを知らされた。桜たちにとって大きな影響があるのは、研究のためになるべく影人捕獲を優先するようにすることだ。前例の少ないことのためその困難さは想像に難くないが、未来のことを考えるとやるしかない。
嫌な予感を感じながらも、桜は前を向いた。